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「尼僧は腕っぷし~平成鎌倉宗教の乱」第26回

26回●伝統宗教と新興宗教が鎌倉市内で小競り合い

 2月に入ると、母親からほぼ毎日、鎌倉における伝統宗教とサンシャインピープルの小競り合いの模様が報告されるようになった。

「昨日は極楽寺近辺、一昨日は長谷近辺。サンシャインの部隊が現れるとすぐさま近くのお寺とか神社とか教会の皆さんが駆けつけて活動を阻止するのよ。市民がそれを加勢して大騒ぎになるの。警察が間に入るけど民事介入はできないって、外側からなんとかかんとか言うだけで役に立たないのよ」

その模様はテレビや新聞で毎日ニュースになっている。今や日本中、いや世界中の注目の的だ。

 一方、おひさまの会に関しては、12月上旬の幹部信者への襲撃以来、ニュースになるような動きはない。

 気にはなったが、明慶や篠原に状況を確認するつもりはない。

 海外旅行業界専門ライターとして、ルーティンワークを平和にこなしていく毎日だ。ともえや酒井が「気にならないのか」と聞いてくるが、意地でも「気になる」とは言わない。

 2月上旬のある日、珍しく涼心院の明慶から電話が来た。

「最近ご連絡がないので、ご機嫌うかがいで電話してみました。いかがお過ごしですか?」

「いえいえ、至って平和に過ごしています。このバブル景気で海外旅行業界はますますの繁栄で、専門ライターは笑いが止まりませんや」

 明慶がふざけた口調で来たのでこっちもそれに乗ってやった。

「冗談はともかく、実際のところ、今回の件でいろいろ動き回って探りまわって、宗教ってものにほとほと嫌気がさしているんです」。本当は利用されまくって頭に来ているのだが、それを言うと自分がみじめになるから回りくどく嫌味を言った。

「ニュースで宗教関係の人たちは大変だなあ、と思いますが、もう関係ない、というのが本音です。僕は本業に戻りました」

 明慶はしばらく黙った後、「そう。いろいろと傷つけちゃったみたいね。ごめんなさい。機嫌が直ったらまた遊びに来てください。それじゃ」

「ちょ、ちょ、ちょっと待った。何の電話ですか。気になるじゃないですか。一応言いましょうよ。何ですか?」

◆◇

「今、暮乃さんがここにいらっしゃって無茶なことを言っているんです」

 こういうことだ。明慶や聖マリア修道院に迷惑を掛けているサンシャインピープルを調べるために、暮乃悠がサンシャインピープルに潜入しようと考えているというのだ。チームのメンバーへのコンタクトを取ろうと盛んに働きかけるが、小町通りの一件で要注意人物にリストアップされているので、顔を見られるだけで拒絶されている。「変装して潜入する」と明慶に言っているという。明慶はここにきて俺に止めてほしいということなのだ。

暮乃は大学で宗教を専攻していたらしいので、日本の宗教には詳しいが、それはあくまで学術的な知識で、例えばおひさまの会に関して詳しいのも、座学的な研究の延長であり、フィールドワークは苦手とのこと。だから焦っているのだ

仕方がないので涼心院に出向いた。慶真は所用で出かけていた。

暮乃に潜入をやめるように言うと、「だったら御厨さんはどうすればいいと思っているんですか」と詰め寄ってきた。仕方がないから明慶と暮乃から話を聞いた。

明慶は「鎌倉の寺や教会や神社も困っているの。いくら説得してもそもそもこちらの日本語を聞き取る能力に問題がある。だから、ただ闇雲に説得してこようとしてくるのよ」。

暮乃は「そんな状況ですが、私も拙い英語を使って何とか、布教メンバーの何人かに話を聞くことができました。彼ら彼女らも実際は悩んでいるそうで、私に話をしてホッとしている人もいました。で、悩みというのは、チームを引っ張っていくリーダーがいないからだそうです。実際は何人かいるんですが、日本の事情が分かっているリーダーじゃないとうまく勧誘ができないということです。その中で気になる名前が出てきました。タジマユキです。ユキがいればもっとうまくいくはずだというのです」。

そうか、早々に離脱した田島由紀がキーパーソンだったのか。

暮乃のもう1つの情報も非常に重要だった。

暮乃は週刊ダイナマイツで今回の案件に関わってから、サンシャインピープルに詳しい大学時代の研究仲間とコンタクトを取ろうとしていたが、その仲間は海外で長期の仕事に就いていてなかなかコンタクトが取れなかった。

2月に入りコンタクトが取れ、高橋奈美が教団内部で何をやっているかが分かった。「実質的なリーダーですよ。アイリーンはセレブレーションカンパニーに専念していて、サンシャインは養子の奈美が取り仕切っているそうです。ここ数年、権力の移譲が徐々に行われていたそうです」。

権力を一手に握った奈美は、積年の恨みを持つ父親への恨みを晴らすべく、おひさまの会の乗っ取りと、恨みを持つ日本社会への仕返しをもくろんでいるのだろう。

たぶん表に出てないだろうが、アイリーンと奈美は同性愛カップルなのかと聞くと、研究仲間は、そんなことはない。アイリーンはこれまでずっと独身だが、奈美は入籍はしていないが事実上の異性の夫がいると一笑に付した。マッチョ文化のアメリカでは、女が成功するとやっかんでそういう噂を流す輩がいる。そうであってもなくてもどうでもいいことだ。

明慶と暮乃と俺で、この材料を基に推理してみた。

1つ目。同性愛説を利用して高橋是松は奈美の後継者としての資格を阻もうとしているのだろう。つまり、おひさまの会の乗っ取りを阻むということ。内部に造反グループがいること。造反グループは奈美とつながっていること。すべて親父さんは知っていて、宗教会議を利用して焚きつけて阻もうとしている。

「こう論理立てて考えると、虫が良すぎる」。明慶が吐き捨てた。

2つ目。カンパニーを使ってソフトに信者を増やし、一方でおひさまの会乗っ取りを進めていた奈美は、週刊ダイナマイツを始めとするマスコミの力でカンパニー利用を諦めた。そして、ストレートに強引な信者勧誘を始めた

俺は「そこまでは推理できる。で、田島由紀がいればもっとうまくいくという話になった」と言った。

暮乃は「逆に考えれば、影響力のある田島が現れれば、今の状況を打開できるのではないのでしょうか」。

明慶は「日本に入ってきてほしくないのが本音だけど、信教の自由が保障されている日本だから、穏やかに宗教活動をしてくれるのなら問題にはしないということなの」と言った。

ここまでは明慶と暮乃の間で話し合っていたという。

「だから、御厨さんに田島由紀を探してほしいの」と明慶が言う。

「サンシャインだって探しているでしょう」

「でも、見つかっていない」と暮乃が反論する。

俺は了解した。「明慶さん、すぐに始めます。涼心院の電話を借りますよ。少々電話代はかさみますがいいですよね」。

玄関にある電話から、まずワンダートラベルの酒井に電話をして、事情を説明して海外旅行業界で田島と親しい人物について誰がいるか相談した。

「広報関係で旅行会社、ランドオペレーター、航空会社、ホテル。それからマスコミ関係。セレブレーショントラベルが広告クライアントだった、記事タイアップを頼んでいた雑誌やテレビ。元の職場の広告代理店とかあるんじゃないかと思いますが」

「そうだね。あと旅行業界の団体とか、業界親睦サークル、女性限定の親睦サークルっていうのにも参加してたんじゃないかな」

「今自宅じゃないんで、どうしようかな」

「今いるとこ、ファックスある?」

「あ、これ、明慶さん、これファックス兼用ですよね。酒井さん、OKです」

「手書きだけど社名、担当者名、電話番号送るね」

「ありがとうございます、助かります」

「宗教の騒動が収まる手伝いができればうれしいよ」

 2人が待っている居間に戻って、お茶で喉を潤した。熱いお茶に入れ替えてくれていた。

俺の声が聞こえていた明慶が「御厨さんはやっぱり旅行の専門家なのね。言っていることのほとんどが分からなかった」と言うと、暮乃は大きく頷いていた。

30分ほど経って玄関のファックスが音をたて始めた。玄関に行くと電話機から感熱紙を吐き出していた。

 切り取って居間に戻り座って紙を見始めると、両脇に明慶と暮乃が座り、俺の手元を覗き込んだ。

「鬱陶しいなあ。見ても分からないでしょ」

「いえいえ、大丈夫」と明慶は紙を凝視している。

〈第26回・了〉


※アサヒは別のエキサイトブログで「ジャズ」関連のエッセイと小説を掲載しています。

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by toshi2025asahi | 2026-02-12 16:29 | Comments(0)

フリーランスライター、旭利彦が書く小説。記憶の欠片を発端にストーリーは勝手に進んでいく。どこに行き着くか書き手も分からない。どうぞお楽しみに。


by shousetsuasahi